もちろんあの海岸へだ。
あの日の数日後、ちょうど暇ができたので育人君にTELしたところ、育人君も空いていたので行くことにし
た。
結局電話したときも育人君の反応は一緒でこの間から何も変わっていなかった。
あの海水浴場へ行くまでも行ったときも同じ感じ。
なんだか溜息が出る。
少しくらい喜んでくれてもいいのに逆に恥ずかしがってるのだからなんとも言えない。
それではこの調子で進んでいくとよくよくは結婚だろうけど、そのときはどうするのだということになる。
初心(うぶ)にも限度があるんじゃないかと思ったりもする。
多分プロポーズなんてものも私からだろうかと心配だ。
まあともかくその話はさておき、今日は花火大会の日だ。
この間は納涼祭があって、そのときに私は浴衣を来ていった。
私は今日の花火大会にも同じものを着ていくつもりだった。
しかし育人君の希望によって別の浴衣を着ていくことになった。
浴衣なんて年にこの夏の納涼祭と花火大会くらいしかないので、たまには出す必要がある。
だから私もそのついでなので育人君の希望に則ることにした。
ところで、花火大会は例の海岸で開かれる。
そこへはバスも走っているのだけどもおよそ混むことが予想されるので私たちは自転車で行くことにした。
自転車で行くということはもちろん帰りにあの坂を越える必要がある。
別にそう大して傾斜が急だというわけではないが、何分長いのでそれが悩みの種である。
この日もまた瑞井駅集合。
そこから線路沿いの道を走って海岸へと出る。
私たちは瑞井で合流したあと、その道を走り海岸へと出た。
海岸そのものは人里から離れているのにいつもにぎわっている場所である。
何故ならこの近辺にはここしか海水浴場がないからだ。
そんなこんなでこの海水浴場には今日も大勢の人が集まっていた。
大半の人は海水浴場の駐車場に車を止め、海岸でビニールシートを広げて見る。
私たちもそれに倣(なら)って駐車場の駐輪場に自転車を止め、予め持ってきていたビニールシートに並んで座った。
こうなるともう誰が見てもカップルとしか言いようがないような感じになる。
まあ実際カップルなのだからその点は別にかまわないのだけれども。
それから10分ほど経った頃、一つ目の花火が音を立てて空へと花開いだ。
そのあと、しばらく間を置いて花火が空へと上がる。
あとは立て続けに連続であがったり、絵だったり、水上花火なんかが夏の夜空を彩った。
それから全ての花火が上がり終わった後、夜の海水浴場は帰りの人の会話で騒がしかった。
私たちもその流れに則って帰ろうと思っていると、育人君に止められた。
「ねぇ、ちょっと待って」
「えっ、なんで?」
「いいから。とりあえず人の波が引くまで待とう」
「う、うん・・・」
それから人の波が引いて海岸には私たち二人だけが取り残された。
「ここって街から離れてるでしょ?」
「うん」
「なら星空が綺麗なんじゃないかなと思って」
そう言われて空を見上げるとそこには花火の明るさとはまた違う、なんとも言い難い明かりが私たちを照らしていた。
やがて、月日は流れ、私たちはめでたく結ばれることができた
あれから数年が経ったというのに育人君はあまり変わっていない。
結局プロポーズだって私からする羽目になった。
まあOKだったんだけど。
もちろん状況が状況だから恥じらいはあるだろうけど、育人君の返答には少々時間がかかったような気もする。
場所は例の砂浜で、去年の夏に花火に行ったその帰りだ。
まあ悪くはない。
人が帰った後、今度は私が育人君を呼び止めてしたわけだけど。
お互いの親同士は元々顔見知りで仲もよかったからそれほど時間がかかったと言うわけでもなかった。
結婚式における仲人は仁志君で、それも無事に済んだ。
新婚旅行なんていうのは英語圏の海外で、育人君はもちろん得意げになって現地の人と会話をしていた。
私はそのうちごく一部しか分からなかったけれども。
私たちはしばらく私の前の家、育人君の家の隣に住んでいて、しばらくお金を蓄えていた。
それから家の住宅地内にある空き地に家を建てて、今の住まいというわけだ。
まあそれほど時間がかかったというわけではなかったのだけども。
・・・もちろん、二人だけで建てたというわけではなくてある程度互いの親に仮があるけども。
まあこうしてのんびりと新婚生活を送れるのもあの二人のおかげだと思う。
この先の計画はまだたっていないけれどきっと家庭円満であろう
いや、むしろそういうことを望みたい
少し考えてみると付き合いだしてからというものの育人君と喧嘩をした覚えがない
よく『喧嘩をするほど仲がいい』というが、その理論からいくと私たちはあまり仲は良くはないのだろうけど
ともかく、私たちは問題なく時間を過ごしている
では、また連絡します
by satsuki minogi
____________________
いやー、終わりましたね~ 小説
思えば長かったような短かったような・・・・
振り返ってみると書き始めは今年の3月 学校のノートの後ろに書いたのが始まりです
あ、ちなみに、国語のノートの後ろは文字ビッシリです、今も
では、次回作及び小説2でお会いしましょう
この間、育人君に誘われて水着も持たずに海へ行き、暑い最中、肌を焼いていた。
この時分は肌は焼いてなんぼだったから、別にいいんだけど。
でも流石に海を目前にして暑いのに耐えかねて、二人で私の家(うち)まで帰ってきた。
まあ事情はともかく、今度は私が誘うことにした。
ピリリリリ、ピリリリリ──
「もしもし三野木です」
男の人の声だけども、育人君ではない。
なら、育人君のお父さんだろうか。
「もしもし岸原ですが。育人君いらっしゃいますか?」
「ええっと・・・皐月さん?」
「えっ、はい。お世話になっております」
「いえいえ、滅相もない。育人でしたよね?今呼んできますから」
「はい」
それからしばらく保留の音楽が鳴っていて、育人君の声と同時にそれが止まった。
「もしもし皐月さん?予定決まったわけ?」
「うん。明日空いてる?」
「もちろん。そうだ、仁志や美樹も誘う?」
何故二人の名前が?
「えっ、できれば二人で行きたいんだけど」
まさかデートだというのを分かってない?
「そう?なら止(よ)しておくけど・・・。えっと、海だよね?」
「うん。この前の海岸へ。昼過ぎ空いてる?」
「うん」
「じゃあ1時くらいに家に来て。何も持ってこなくてもいいから」
「えっ、何もいらないの?」
「うん。あれ、もしかして、何か期待してた?」
場所が海だから、例えば泳ぎに行くだとか。
「えっ、いや、そんなことはないよ?」
「そう?別に泳ぎにいってもいいんだけど」
「え、いや、遠慮しとくよ。折角計画立ててくれたんだし」
「そう?別にいいよ。泳ぎに行くのでも。時間もあるしね」
「でも・・・ねぇ」
「ならそれはまた今度にする?」
「えっ・・・う、うん」
一体育人君は何に戸惑っているんだか・・・。
「ならまた近いうちに行こう」
「うん・・・」
なんだかいつかの育人君を思い出す。
多分こんなことを言っても反応は一緒だろうな・・・。
「そのときは育人君が誘ってよ」
「えっ、僕から?」
「うん」
「そんなことを言われてもなぁ・・・」
予想的中。
「仕方ない。私からかけるよ」
「うん。そうして・・・」
「じゃ、明日昼過ぎにうちにね」
「うん」
──ガシャン
ダメだね、これじゃ・・・。
で、明日の昼過ぎ。
ピンポーン・・・。
「こんにちわ~」
家の中に育人君の声が響く。
駆けつけた私に対してまず質問をひとつ。
「で、何するわけ?」
「とりあえず、夕方までうちで涼んでいって」
「う、うん」
まだこの調子だったのか・・・。
そして夕方。
まだ太陽は沈んではいないけれども、大分傾いている。
「そろそろ海に行こう」
「えっ、うん」
色々と話している最中、そろそろなんて言うと育人君がまた元に戻っている。
全くどうしたものか、別に付き合って半年になるのだからそれほどにまで遠慮することもないのに。
どうせなら海に行こうって育人君から誘って欲しかったのに、結局私が誘うことになってるし。
恥ずかしいのか単純に億劫なのか、多分前者だと思うけど、どうにかならないものかな・・・。
そして、電車に揺られて今度はバスで浜へついた頃。
「もしかして夕日見に来たわけ?」
「うん。ここなら綺麗だと思って」
「なら折角だしカメラでも持ってこればよかったな・・・」
「胸の中にしまっておいてよ。この光景」
「うん。そうさせてもらうよ」
海の水平線に沈んでゆく太陽は普段見ることの出来ない姿を私たちに見せていた。
2月24日。
それは私の誕生日。
そして、育人君から初めてプレゼントをもらう日でもある。
そのプレゼントをまた美樹ちゃんと一緒に買いにいったというのは驚きだけど・・・。
まあ私だって仁志君と一緒にいたわけだしお相子だろう。
差し詰め、育人君のことだし何選べば良いのか迷って、そこで美樹ちゃんに助け船を出してもらったというと
ころだろうし。
それほど大して深い意味でもなさそうだ。
今日もまた朝早くから、育人君の家を訪れて、おばさんに挨拶して、育人君が呼ばれて、出てきて、一緒に
行って、の同じリズムを繰り返す。
ただ違ったのは育人君の第一声がおはようでなかったと言うことくらい。
「部活終わったら家に来てくれない?」
昼休みに早速、育人君から声がかかる。
「でも何時終わるかわからないよ?」
「それは大丈夫。お母さんに託(ことづけ)してあるから。もし先に終わったら入って待ってて」
「じゃあそうするね」
とは言ったもののそうするとまたおばさんと雑談?
「あれ、待っててくれたわけ?」
部活も終わって、日が沈む頃。
しばらく昇降口の軒(のき)で時間を潰していたけどそれほどかからなかったみたい。
「出てくるときに終わったのが見えたから」
本当は見えてなんてなかったけど・・・。
「そう。じゃ帰ろう」
「うん」
「でさ、何買ってくれたの?」
やはりこれは気になる。
「それは開けてからのお楽しみ」
なんか美樹ちゃんみたい・・・それも口調まで。
「なんか美樹ちゃんも同じこと言いそう」
「たしかに・・・」
「そういや、その誕生日プレゼントって美樹ちゃんと一緒に買いに行ったんでしょ?」
「えっ、なんで知ってるわけ?」
「それは仁志君が教えてくれて」
「そうか、あの時に・・・」
それは勿論育人君が美樹ちゃんと待ち合わせをしていたあの時だろう。
「ごめん。実は私もあの日、仁志君と一緒で」
「えっ、そう・・・」
「まあ、お相子ってことで」
「でも仁志と何を?」
「えっ、まあその辺をぶらぶらと」
「じゃあ仁志は何しに行ったんだか・・・」
「暇つぶしなんじゃないかなぁ・・・。まあ私も暇だったからいいんだけど」
「暇つぶしって・・・なんだかなぁ」
まあ育人君にしてみればそうだろうね・・・。
「どうせだから入る?外寒いし」
「うん」
玄関を開けた先、いたのは育人君のお母さん。
「こんにちは~」
「あら、2人一緒?」
「えっ、はい」
「たまたま一緒に終わったから」
「そう・・・。まあ、ゆっくりしていって」
なんだか残念そうに聞こえるのは気のせいだろうか。
いや、気のせいだ、絶対。
「じゃあ上にあがって」
「うん」
「はい、プレゼント」
育人君が机から出してきたものを受け取る。
それは、青と白のストライプ模様で長細い形をしている。
「ありがと。開けていい?」
「勿論。そのためにあるんだから」
包装を取るとでてきたのは黄緑色の箱。
その箱の中には・・・。
「・・・ネックレス?」
それは、ひし形の透明な八面体の飾りに銀の鎖がついている。
「うん」
「美樹と行って、選んできたんだけど」
「へぇ~」
それを首にかけお決まりの一言。
「どう?」
「いいんじゃない?」
「『いいんじゃない』ってなんか曖昧な言い方・・・」
「そう?じゃあはっきり言ったほうが良いわけ?」
「えっ、それもちょっと・・・」
はっきり言われると褒めてるならともかく似合わないならショックでしょ・・・。
「まあ、はっきりいってくれるならそれでもいいんだけど・・・」
「うん、似合ってるよ」
直球・・・・
育人君のいままででは想像できない発言
もしかしてこれも美樹ちゃんに教えられたのかな
「あ、ありがと」
いつもなら育人君が照れてるはずなのに私のほうが赤くなってしまっていた
_______________
ピューーーーーー
ども、凛楓です
あと3話だー サビシーね~
カウントダウンだ
2月19日日曜日の午後二時少し前。
家の電話が鳴る。
先日育人君に電話番号を教えたばかりだから私はすっかり育人君からかかってきたものだと思っていた。
でも・・・。
「もしもし、岸原です」
「あっ皐月ちゃん?」
「えっ仁志君?」
「ああ。今から行っていいか?」
「えっ、私はいいけど・・・育人君と美樹ちゃんが怒らない?」
「それは大丈夫だからよ。行っていいだろ?」
「う、うん」
「じゃあ2時半くらいにな」
「うん・・・」
──ガシャン
仁志君は遊びに来るんだろうと思うけど、一応育人君にも電話しておこうと思い再び電話をとる。
ピリリリリ、ピリリリリ──
「はい、もしもし三野木です」
「岸原ですが、育人君いますか?」
「あら、皐月ちゃん?育人ならさっき買い物行くって出かけたんだけど」
「そうですか・・・」
「なんなら何か伝えましょうか?」
「いえ結構です・・・」
「そう?」
「ええ。ではそろそろ」
「はい」
──ガシャン
買い物ってことはプレゼントでも買いに行っているのだろうか。
なら素直に喜ぶべきなんだけど、育人君に言わずに仁志君を呼ぶのは気が引ける。
でもいないのだからしょうがない。
とりあえず仁志君が来るのを待つか・・・。
─そして2時半過ぎ─
ピンポーン・・・。
「よぉ」
「うん・・・、まあ入って」
「ああ」
それから二人で私の部屋へと入りテーブルの傍(そば)のクッションに座る。
「それにしてもなんで突然電話なんか?」
「最初は美樹のとこへ行こうと思ったんだけど買い物へ行ったらしくてよ」
「それで?」
「それで今度は育人のところへかけたんだけどよ。でも育人も買い物にいったらしくて」
それは知ってるけど・・・。
「だからここに・・・」
「じゃあ何、二人ともいないからここに来たってこと?」
「ごめん・・・」
まあ二人ともいないのだから仕方ないけど、最後っていうのもちょっとな・・・。
「で、実はここに来るときに駅で育人に会ったんだけどよ」
「へぇ。ホームで?」
「いや駅前なんだけどよ。俺が電車の来る時間になったから駅へ向かって歩いてるときにふと振り返ると美樹と話していてよ」
「ええっ!?美樹ちゃんと!?」
「ああ」
この間美樹ちゃんは『私が代わりに』なんて言ってたけど、まさかね・・・。
でも万一、二人が買い物でなくてデートだったら・・・。
いやここは育人君を固く信じておくべきだろう。
美樹ちゃんも『とり返さなきゃ気が済まない』なんて言ってたし。
まあ、その美樹ちゃんと一緒にいるそうだけど。
しかし私がいるのに美樹ちゃんと一緒にいるっていうのはどうかと思う。
まあ私だってこうして仁志君と部屋にいるのだから人のこと言えないけど。
なら御相子か・・・。
でも私と仁志君は育人君や美樹ちゃんがいてこそ、どういう関係かと説明できるような仲だと思うんだけど。
「う~ん・・・。この間俺と美樹って喧嘩してただろ?」
「えっ、うん」
考えごとをしているのにいきなり話し掛けられるものだから思わず驚いてしまう。
「あれは月末だったと思うんだけど、その最後の日曜日に美樹から電話があってよ」
「うん」
「それでその日の午後に二人で大久駅の近くのデパートに買い物に行ってよ」
「へぇ」
「まあ俺は別に買うもの無かったんだけど。しばらく二人でぶらぶらとしていて・・・」
まあ美樹ちゃんは喧嘩してるつもりはなかったらしいけど、仁志君からしてみれば居心地が悪かったので
は・・・。
「その間美樹は普通に話しかけてくるものだからすっかり解(ほぐ)れてしまってよ」
「へぇ。それはよかったんじゃない?」
「ああ。でも喧嘩なんてもうしたくないな、ほんとに。皐月ちゃんも気を付けなよ?」
「う、うん・・・」
育人君と喧嘩ねぇ・・・。
今するとしたらその原因を作っているのは仁志君と美樹ちゃんの二人でしょ・・・。
_________
バイバイ
⇈
⇈
⇈ヒューーー
⇈
⇈
⇈
▽
+
O
この日は家庭に一つの転機が起きた。
いや転機が起こったのはお父さんであって、家庭はその影響を受けたというのだろうか。
まあそんなに大した影響ではないのだけども。
ともかくこのことを・・・『大切な人』に、伝えておくべきだ。
そう思い電話の受話器を取り上げ、あの人に電話をかける。
ピリリリリ、ピリリリリ──
「もしもし、三野木ですが」
「あっ、育人君?」
「皐月さん?何かあった?こんな夜分に」
育人君の言う通りお父さんが帰ってきて話を聞いた後だから結構遅い時間だ。
「えっ、ちょっとね・・・。今時間ある?」
「あるけど・・・」
「じゃあ、しばらくこうして話しててもいいでしょ?」
「うん。もちろん」
「ええっと・・・。実はお父さんの会社、潰れちゃって・・・」
というのが伝えなればならない起こった転機である。
「えっ・・・」
「だからもう、ここから他へ引っ越すこともないんだ」
「え、でも・・・」
「あれ、嬉しくない?」
「嬉しいわけないよ。倒産ってことは職を失ったってことでしょ?なんでそれが嬉しいのさ?」
えっ・・・?
あっ、そういや肝心なところを言い忘れている。
「あっ・・・。ごめん、再就職先はもう決まってて・・・」
「・・・」
「だから勤めるところが変わったってだけで・・・。他はそんなに変わらないから」
「へぇ・・・」
「寧ろ、転勤で引っ越すこともなくなったから。これ以上育人君と離れることもないだろうし」
「そう・・・」
なんだかすっかりしらけてる。
電話越しだから表情は見えないけど怪訝な感じだろうな・・・。
「それを育人君に伝えておきたくて・・・」
「それは・・・ありがとう」
「そういや電話番号教えてなかったよね?」
「えっ、うん。家(うち)のは教えたけど」
あ、やっぱり。
仁志君に先に伝えたなんて言ったら怒ったりするかな、なんて思いつつ。
「じゃあ教えておくね」
「うん」
「○○○○-××-□□□□ね」
「わかった。じゃあまた掛けたいときに掛けるよ」
「うん」
「・・・そうだ。24日の放課後って時間ある?」
24日ってことは私の誕生日か。
プレゼントのためのアポだろうか。
「部活あるから・・・。その分は遅くなるけどね」
「それは僕も一緒だけど・・・。じゃあその日はよろしく」
「うん。楽しみにしてるね」
「期待してて。そういや・・・部活って何所はいってる?」
「えっ、私?私は手芸部だけど」
これは趣味絡み。
「へぇ。手芸部か・・・」
「育人君は?」
「僕はテニス部」
「へぇ。私はどちらかというと文化部のほうがいいかな・・・」
「運動は嫌い?」
「そんなことはないけど。ただ書いたり作ったりするのが好きなだけ」
「じゃあ小説とか書いたりしてるわけ?」
「小説は書かないけど。詩くらいならたまに」
本当にたまだけどね・・・。
「へぇ詩か・・・。見てみたい気もするなぁ」
「えっ・・・。あれは幾ら育人君でもちょっと・・・」
「あれは、ってそんなに悪い出来だったの?」
そういう問題じゃなくて
「育人君、秘密は誰でも持ってるものだよ」
「あはは・・・。あっ、そろそろお風呂行くから切るよ」
「うん」
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみ~」
──ガシャン
また随分長電話だったな・・・。
_________________
こんな言葉で書き始めるのもなんだけど
死にそうです
倒れそうです
死にそうです
師に沿うわけじゃないですけど、しにそうです
あとがきもいつもながらに短く
小説書くって私みたいだね~、皐月~
ウソです
育人ってあんまテニスっぽくないですよね~
実は意外と上手かったり・・・・
その辺は機会があったらね・・・・
じゃ!
今日はあの3人が家に来る。
元々は美樹ちゃんと仁志君を仲直りさせようって魂胆で計画した訳だけど、いつの間にか二人は仲直りをしていた。
だから結局これは二人の仲直り記念とでも言うのだろうか。
ともかく元々の目的とは違うものの3人が家に遊びに来ることになった。
来るのは昼過ぎの3時。
俗にいうおやつの時間。
この間、育人君が来たときにはクッキーを作って出した。
そのときには育人君にも好評。
それで自分に自信がついたというのだろうか、今度はケーキを作ることにした。
ケーキはイチゴのケーキで二層仕立て。
生クリームで包まれたスポンジに薄切りの苺が挟まれているごく普通のケーキ。
何か工夫があるとかそういうのではないのだけど。
昼食が済みお皿を片付け終わったら、早速ケーキ作りに取りかかる。
レシピを見ながら小麦粉・卵・牛乳・砂糖なんかをボールの中に順に入れてかかる。
それを型に流しこんでオーブンにいれ、スポンジをつくる。
そして先に用意しておいた生クリームで周りをコーティング、ホイップクリームでデコレーションをして──
ピンポーン・・・。
まだ作ってる途中なんだけども。
「お母さんが出るから、安心して作ってて」
「え、うん」
でもちょっと心配・・・。
ともかく目の前にあるケーキに買っておいた苺を乗せ、ケーキを完成させる。
自分や家族で食べたことはあるけど、他の人に食べてもらうのは初めて。
だからその味が少し心配になるけども味見をするわけにもいかない。
食器棚からお皿を6枚出し、フォークを4本出す。
フォークは私と育人君、美樹ちゃん、仁志君のぶん。
ケーキとお皿の差、2枚はお父さんとお母さんのため。
流石にこれを4人で分けると大きいし。
「皐月、3人とも居間に居てもらっているから」
と、玄関から案内し終わって戻ってきたお母さんが言う。
「は~い」
ケーキを持ったまま、ドアを開けることはできないので先にキッチンと居間のドアを開けに行く。
キッチンと廊下の間のドアを開け、居間と廊下の間のドアを開ける。
「よっ」
と、育人君が挨拶する。
前々から思うに、どうも育人君とは合わない挨拶のような気もする。
「あ、ちょっと待ってて。今、ケーキ持ってくるから」
3人にそう断ってキッチンに向かい、ケーキとお皿を取りに行く。
「お待ちどう」
そう言い、ケーキを炬燵(こたつ)の上におき、自分も空いたところへと入る。
「とりあえず、ケーキ食べる?」
「あぁ」
「うん」
それを受け、ケーキを6等分にしてお皿の上へと置く。
そして、うち二つをキッチンの冷蔵庫へと片付けに行き、3人にその感想を訊く。
「どう?」
「美味しいと思うよ」
「美味いね」
「う~ん、作り方教えてくれない?」
え、あのどこにでもありそうな普通のレシピを?
「えっ、作り方?」
「そうそう」
まあ、普通のだけどもいいか・・・。
「じゃああとでね」
「うん」
ところでこの間育人君が家に来たときには引っ越しから1週間しか経っていなくて必要以外のものは片付いていなかった。
けれども、今は部屋からダンボール箱は消えている。
整頓できたら見せてなんて育人君言ってたし。
「そういやあれから結構部屋片付いたんだけど・・・見る?」
「え、うん」
「あのさ、皐月ちゃん」
と、話しかけるのは仁志君。
「何?」
「ここの電話番号教えてほしいんだけどよ・・・」
と、小声で言う。
「電話番号?いいけど。なんで?」
つられて自分も小声になる。
「最近美樹といろいろあるからさ、相談に乗ってもらいたくてよ」
まああれは美樹ちゃんの気遣いなんだけどね。
「相談?私でよければいつでもいいよ。○○○○-××-□□□□ね」
仁志君はその番号を帳に書く。
「じゃあまた、かけさせてもらうよ」
「うん」
あれ、もしかして育人君には電話番号、まだ教えてなかったっけ・・・。
__________________________
うい~、頭痛いよ~
こっちのあとがきはなしにして、もう1話いきます
育人君に電話をかけたつもりだったんだけど・・・。
「え、まぁ・・・。ところで、育人君いますか?」
「あ、育人?ちょっと、待っててね。育人、電話よ~」
それからしばらくして電話の相手が育人君に替わる。
「もしもし」
「私だけど。今から行っていい?」
「今から?別にいいけど」
「じゃあ2時過ぎにね」
「うん」
──ガシャン
危うく、育人君のおばさんと長電話するところだった・・・。
─そして2時頃─
ピンポーン・・・。
玄関のドアを開けると、二階から育人君が降りてくる。
「あ、育人君」
「ささ、早くあがって」
「うん」
案内され、二階にあがり、育人君の部屋へと入り、ベットの上に座る。
床はカーペットで私の部屋と同じ位の広さの部屋の中に、窓が二つ。
一方の窓の下にはベットがあり、その向かいに机、更にその隣には本棚がある。
「急だったから何もないけど・・・」
「えっ、ううん。別に構わないよ。私だって急に押しかけたんだから」
「そう?」
「そうそう。私も育人君の部屋が見たかったし」
しかし、見た・・・からどうなんだろう。
ただそれだけで終わってしまえば何をしに来たのかもわからない。
そうだ、先日の育人君が何故私のことを好きになったのかって言うのを、この機会に訊いておけば・・・。
「ところでさ、なんで私のことが好きだってそう想ったの?」
「えっ・・・。う~ん、なんていうのかな。一目惚れっていうやつ?」
というと、あの初めて会ったあの朝に?
何やら育人君がしばらく時が止まったかのようになっていたけど・・・あれか。
「じゃあ根本的な理由はないわけ?」
「と、いうと・・・どこがどうだからとかそういうの?」
「まあ、そういうこと」
「う~ん、言うのはなんだけど、そういうのは別に・・・」
「そう・・・」
答えは出ず、曖昧なまま。
「じゃあ皐月さんは?」
「えっ?私?」
やっぱり、訊くと訊かれる・・・。
「あの遊園地の観覧車で先に言ったのは皐月さんでしょ?」
「まあ、そうだけど。あれは・・・」
「あれは?」
「あれは・・・ああでもしないと、育人君、言ってくれそうになかったから」
「え・・・」
「まあ私もあれ以前から好きだったんだけど・・・一種の切っ掛けってやつで」
育人君の気持ちを知るための・・・切っ掛け。
「へぇ・・・。で、なんで僕なんか?」
『なんか』って言ってるけど、過去に付きあったことがあると聞いているけど・・・。
私は『育人君なんか好きになった』ではなくて、『育人君だから好きになった』のに。
人はいさ心も知れず(ふるさとは─と続くのだけども)。
「『なんか』なんて言わないでよ。好きでいる私の立場がないじゃない」
「うん・・・。で、何故僕のことを?」
「なんだかこう・・・自然にね。もしかしたらあの二人に言われたせいかもしれないけど」
あれって二人の育人君に対する気遣いだったのかな・・・。
「へぇ。なんて?」
「あの席替えのときに、美樹ちゃんと仁志君が『育人君が私に惚けてるんじゃないか』なんて言うから」
「そっか、あの2人がね・・」
それを聞いた育人君は久しぶりに真っ赤になっていた。
______________________
どーもーもーもーもーも
凛ちゃんです(8月28日の日記をみよ)
もう33話ですね~ カウントダウンですね~
皐月、大胆ですね~ ッモウホント
じゃ
今日もまた育人君の家へと向かう。
多少、早く出ているせいか学校の前を通過しても誰にも出くわすことはない。
まあ、毎日日にち学校へは二人で来ているものだからクラスの中においては周りに公表しているようなもの
であるけども。
勿論、そういう話こそ伝わるのは早いものでクラスを問わず大方の人は知っていると思われる。
それでこうして付き合ったりなんかしてると皆からは一目置かれたりもする。
別に周囲に自慢するつもりなんて甚(はなは)だないのだけども。
ところで昨日は、あのあと6時くらいまで話しこんでて気付いた頃には外は真っ暗だった。
時計を見て驚いた育人君は急いで帰る支度をし、駆けて駅のほうへと向かった。
あのあとどうなったのかは知らないけども、育人君の慌てようからするとその時間はよろしくないようだ。
私は学校の前を通りすぎ、育人君の家の前につく。
その隣にある家は懐かし(?)の前の家。
まだたった二ヶ月ちょっとしか経っていないのにここへ引っ越してきた頃がとても懐かしく思われる。
まあそれはさておき、早速そのチャイムを押す。
ピンポーン・・・。
「は~い」
なんだか、土曜日に来たときよりも声のトーンが高い気がするのは気のせいだろうか。
もしかして育人君がばらしたことによって家(うち)のお母さんみたいに舞いあがってる?
昨日も育人君が帰るときになって中から出てきてよろしくなんて言ってたけども。
そんな感じだろうか・・・。
駆ける音がして、玄関のドアが開く。
「おはようございま~す」
「おはよう、皐月ちゃん」
そう挨拶を返すおばさんはあらん限りの笑顔。
・・・家(うち)と一緒だな。
「育人でしょ?ちょっと待っててね」
さすが、察しが早い。
おばさんは中へかけていき、育人君を急かす声がして、育人君が出てくる。
「おはよ~」
「おはよう」
で、玄関を出て早速歩き出す。
「はぁ」
「あれ、どうかしたの?」
「いや、なんだか家の中じゃお母さん、ずっと皐月さんの肩もちだから疲れちゃって」
家(うち)のお母さんだってあんな調子だから育人君が来ると・・・。
「ああ、それは多分家に来れば逆になると思うよ」
「ってことはあれからずっと?」
「うん、なんだか1人舞いあがっちゃってて。お父さんが帰ってきたときにもすぐに話し出す始末だから」
「へぇ~」
「まあお父さんはそんなにでもなかったけど。というかお父さんは多分隣に住んでた人って位のイメージしか
ないと思う・・・」
「じゃあおばさんは何故?」
「あれ、知らなかった?お母さんはここの近くのスーパーでアルバイトしてるんだけど」
「いや、全然・・・」
「それで、お隣ってこともあってか育人君のお母さんと意気投合しちゃったらしくて」
「へぇ。だから家(うち)のお母さんも昨日ああなったのか・・・」
なんか1人で納得してるみたいなんだけど・・・私にはそれが何なのかはわからない。
「それから自慢やら何やら色々と交わしているみたい」
「へぇ。じゃあ私生活も赤裸々?」
赤裸々って・・・。
「さぁ。私は何も聞いてないけど。何かばれちゃ拙(まず)いことでも?」
「えっ、別にそんなことはないけど・・・」
「ふ~ん。まあ私は別に何があっても構わないけどね」
「僕も、何があっても気持ちの持ちようは今のまま、変わらないから」
これって所謂(いわゆる)愛の深さってやつ?
う~ん・・・愛?
・・・そういや私は育人君の何所に如何(どう)惹(ひ)かれてこうなったのだろう。
・・・・・・。
まあ、今は育人君のことは好きだし、1人でいても愛しく、恋しく、切なくなるし、理由なんて別にどうでもいいか。
それに育人君にも理由なんて訊いてないし。
・・・まあ気にはなるけど。
またいつか機会があればそのときにってことで。
愛があればそれに理由(わけ)なんて必要ない?
というか私は育人君の想いに応えただけなのではないだろうか云々(うんぬん)。。。
まあその辺は深く気にしないでおこうっと・・・。
____________
さっき(31話)あとがき書いたから短く一言
書いてて自分が恥ずかしくなってきた
まあ、今は育人君のことは好きだし、1人でいても愛しく、恋しく、切なくなるし、理由なんて別にどうでもいいか。
よくこんなのかけたな、私
育人君が初めて家(うち)に遊びに来る日。
午後3時に瑞井駅の前の映画館で待ち合わせという約束になっている。
以前、家に遊びに来たいと言っていた美樹ちゃんと仁志君は例のこともあってその話は保留。
よって、育人君だけが家へと遊びにくることになった。
何故時間が午後の3時なのかというと、育人君にクッキーを作って待っているとそう約束したからだ。
それは俗にいうおやつの時間で、その時にクッキーを出そうかとそういう考えの元でだ。
昼過ぎ、キッチンが片付き、開いたところでクッキーの準備をする。
ボールに小麦粉や牛乳、卵、それに味付けをして捏(こ)ねる。
それの色違いを幾つも作り、マーブルとして形作る。
さらにそれをオーブンへといれ、ダイヤルを回し、クッキーを焼く。
これが2時45分くらい。
そろそろ映画館の前へと向かうか。
迎えに行くだけなので何も持たずに家を出て、映画館を目指す。
駅までは3、4分くらいでつく。
角を曲がって約束の場所、映画館が見え、2、3歩歩いたところで声をかけられる。
「よっ」
振りかえるとそこにいたのは育人君だった。
「あっ、育人君。今の電車で着いたところ?」
「うん」
「じゃあ行こう。ここから少し歩いたところだから」
そして、育人君を家まで案内する。
「さあ入って」
と、家の玄関を開けるとそこにはお母さんがいた。
「こんにちは」
「こんにちは・・・ってあら、育人さんじゃない。皐月、お客さんって美樹ちゃんじゃなかったの?」
・・・ってお母さん、育人君のこと知ってるし。
ということは、隣に住んでたってことも勿論知っているだろう。
突然、学校へ行く時間が遅くなったこと。
最近、楽しそうに学校に行くようになったこと。
それを考えると、察してバレてしまうのでは。
「え、うん・・・」
って返事なんてしてる場合じゃなくて、早くしないと。
「ささ、育人君あがって」
「えっ、うん」
と、育人君をお母さんの目の届かぬところへと案内する。
「まだ片付けきれてなくて散らかってるけど・・・」
と、二階の突き当たりにある自分の部屋のドアを開けて、育人君に言う。
「先に座って、寛(くつろ)いでて。クッキー取ってくるから」
そろそろ焼きあがった頃だろう。
そう思い、育人君を部屋に残し自分は階段を降り、キッチンへと向かう。
そこにはまるで待ち構えたかのようにお母さんがいた。
訊かれるのは必然的だなと思いつつ、棚からお皿を出す。
「皐月、育人さんって、もしかして・・・あれ?」
「えっ?育人君は単に・・・」
「単に?」
「単に・・・勉強しにきただけで」
「そうなの?私はてっきり彼氏かなんかだと」
「えっ、そんな、別に、そういう関係なんかじゃ、全然ないって」
と、あたふためいているとうっかり皿を落としてしまう。
皿は辛(かろ)うじて割れることは無かったものの、これはバレたも同然・・・。
「私は別にいいのよ。付き合う相手が育人さんなら。大久でバイトしてた甲斐があったわ。向こうのお母さんとも仲良かったし」
もうその気になったお母さんは誰にも止められない。
これはもうバレたも当然だなと思いつつ、重い足取りで階段を上る。
「お待ちどう」
「・・・どうかしたわけ?」
私の気が滅入っているのを察してか、育人君が訊いてくる。
「・・・実は付き合ってること、バレちゃって」
私はすっかり育人君は引っ越しを告げたときみたいに驚くんだろうな、と思っていたけど・・・。
「別に気にすることないって。どっちみち何時かはバレるんだし」
あれ、育人君にしては案外冷静・・・。
「そりゃそうだけど・・・」
「それにこそこそと隠れる必要が無くなったんだし」
「うん・・・」
「というか、家(うち)もそろそろ危ないんだけど・・・」
って、そんなの聞いてないんだけど。
「えっ?」
「だって月曜から朝にうちに来るでしょ?あれからずっと疑われてて」
ということは私のせいだってことか。
「いや、まだバレてはいないよ?」
バレてないっていってもどうせバレるのは必然的だし、いっそのこと。
「なんだ、なら別に話しちゃってもいいよ。というかそれなら話しておいてくれない?」
「え・・・」
「そのほうが育人君ちに行くのも楽になるしさ。お願い」
「う、うん」
なんだか安心したら小腹が空いてきた。
そして目の前には自分の焼いたクッキーがある。
「では一段落ついたところで、お先に頂きま~す」
と、まあこういうわけで双方両親ともに知られることになったのだった。
__________
ど~も、凛楓です
皐月に育人、大胆すぎだよ
毎度毎度、頭痛いんであんまり長く書きませんけど、このさきに展開がビミョーになってましてね
変えるつもりはないんですけど、やっぱねえ
駅からは数分の所で結構近いところにある。
電車で学校に向かうのは瑞井駅から大久駅を越えて西大久駅へ行くのが15分弱。
そして西大久駅から学校までは10分弱。
ついでに学校から育人君の家までは数分ほど。
学校にはそんなに時間がかかるわけでもないところにある。
玄関先には前の家と同じようなポストが立っている。
これは要するに『場は違えど日課は日課だ』ということになる。
今日もまた何時もの時間に起きて新聞を取りに行って、引っ越しの片付け。
そして月曜日。
また朝にいつもと同じように新聞を取りに出る。
でもその光景はいつもと違う。
空からは雪が何時もと変わらず降り、地面にはそれが積もる。
同じなのはそれだけで、芝生なんかないし前に家もない。
これから家を建てる、その土地しかない。
それになんと言っても育人君がいない。
ともかく・・・逢える時間まで、待つしかないか・・・。
通学途中、育人君の家の前。
早速そのチャイムを鳴らす。
ピンポーン・・・。
「は~い」
そう言って出てきたのは引っ越しの挨拶のときに出てきた育人君のおばさん。
隣家ということもあって、ある程度の付き合いはある。
「おはようございます・・・ってあら、皐月ちゃんじゃない?」
「おはようございます。育人君いますか?」
「育人?ちょっと待っててね。育人~、お客さんよ~」
と、呼ばれた育人君はおばさんと入れ替わりにでてくる。
「おはよ~」
「お、おはよう・・・」
育人君は多少驚いているみたい。
そういや連絡をいれるのをすっかり忘れている・・・。
「さ、早く行こ」
「う、うん・・・」
そう言うと育人君は台所にカバンを取りに戻り、玄関先へと出てくる。
そしてまた歩き始めて。
「それにしても、なんでここに?」
「それは勿論、一緒に居たいからに決まってるじゃない」
「でも駅からでは学校からは反対の方向だし・・・」
「だから態々駅から学校を越えてここまで来たんだって」
「でもそれだとなんだか余計な分、歩かせているような気がして・・・」
「いいのいいの、私が来たくてここまで来たんだから」
「でも・・・ねぇ?」
う~ん、くどい・・・。
「何?私が来たら邪魔なの?」
と、少し睨みをきかせてみたりする。
「えっ、別にそんなことないけど・・・」
「なら、こうして来ても構わないでしょ?」
「えっ、う、うん・・・」
「じゃあ明日も・・・ね?」
「え、うん・・・」
考慮してくれるのは嬉しいんだけど・・・私としてはできればずっと、こうしていたい。
それを分かってるんだか分かってないんだか・・・。
そういえばもうすぐ1月も終わり。
そして2月になるのだけれども、もう決まったのだろうか。
「でさ、どう?」
「え、どうって何が?」
「プレゼント。何にするつもり?」
「それは・・・ひみつ~」
ひみつ~ってまんまとこの間の仕返しされてるし・・・。
まあ、何(いず)れはわかることか。
______________
ども・・・凛楓です・・・・
つかれました・・・・やる気失せてます
しにそうです
あとがきパスさせてください・・・ じゃ
引っ越しと言えども大して遠い距離を移動するわけではないけども。
でも家の中にある荷物を纏めて、箱詰めしたり積み荷にしたりはしなければならない。
今日は土曜日だからもちろん授業はあるのだけども、学校に行ってては用意が間に合わないので休んでい
る。
朝、いつもと同じように新聞を取りに出ると、いつもと同じように育人君がいた。
まあ、当然なんだけど・・・。
そこで何時に出るのかなんて訊かれて最後のその時間は終わった。
なんだか最後にしては呆気ないものだったような気もするけど。
まるで育人君が朝に会えるのは今日が最後だってことに気付いてないのかというくらいで。
学校にまた1人で行かなきゃならないなんてことは言っていたけども、朝のことには一触もしない。
・・・本当に気付いていないんじゃないだろうか。
朝のあの時間と言えば一昨日なんかは――
「あれから仁志と美樹、ずっと喧嘩してるって感じでしょ?」
まあ、見た目はどう見ても喧嘩してるように見えるけど。
「うん」
「それで昨日美樹と話してたみたいだけど・・・どう?」
「美樹ちゃんは仁志君と喧嘩してるとは思ってないみたいなんだけど」
と、美樹ちゃんから聞いた在りのままを話す。
「えっ、なら喧嘩してると思っているのは仁志だけなわけ?」
やはり美樹ちゃんの読みが深すぎて、仁志君にはまるで伝わっていないみたい。
あれで仁志君が分かっていたらあんなに揉めるはずもないし。
「やっぱり美樹ちゃんのいう通り分かってなかったのか・・・でも普通は気付くはずないと思うけど・・・」
「えっ?」
「あっ、こっちの話だから気にしないで」
「そう?じゃあ美樹が突然焼きもちなんか焼いた理由(わけ)は?」
気を使っている本人に焼きもちを焼いていたと言われては元も子もない。
結局美樹ちゃんは縁の下の力持ちであって、上にいる人―勿論育人君のこと―はそれに気付いてない。
しかもそれが焼きもちだって誤解されているのがなんだか可笑しくなってくる。
「えっ、焼きもちのわけ?あれは焼きもちなんかじゃなくて・・・」
尤も、自分も焼きもちだと誤解していたわけだけど。
「じゃ、じゃあ美樹が怒った理由(わけ)は?」
「う~ん・・・」
美樹ちゃんが怒った理由。
それは仁志君が育人君よりも先に約束を取りつけようとしたから。
でもなんだかそれを言ってしまうと、他のことまで坦々と喋ってしまいそうな気もする。
他のことというのは、仁志君が二股をかけるだとか代わりに美樹ちゃんが付き合うだとかそういうこと。
まさかそんなことを育人君に話すわけにもいかないし・・・。
ここは女の子の話ってことで、育人君には秘密にしておこう。
「それは、ひ・み・つ」
なんだか育人君が納得できないって顔をしている。
そういえば、また連絡取れるように電話番号でも訊いておかないと。
「あ、そうだ、また電話かけたいんだけど電話番号教えてくれない?」
「えっ、うちのは○○○○-△△△-×××だけど」
「じゃあ何か用があったらかけるね」
「う、うん」
――なんて、話をしていた。
でもあれから仁志君と美樹ちゃんは全然話さない。
美樹ちゃんだって喧嘩してるつもりがないなら少しくらい仁志君とも話せばいいのにとよく思う。
ともかく引っ越しの準備を済ましてしまって育人君が見送りに来るのを待つか・・・。
______________
どうも、凛楓です
いや~、電話番号、殺したくなりますね
OOOー△△△ーxxxとかね~、調子乗ってるよね~
ってわけで、このままもう1話いっちゃいます
引越しすることが決まってそれを育人君にどう告げようかと悩んで・・・。
それで昨日の昼休みにああしてそのことを告げたわけで。
でも育人君は思いのほか気楽な感じでそれほどにまでは気にしていなかったみたい。
ある意味それもショックなんだけど。
少しくらいあの朝の時間、気にかけてくれてもいいじゃないかってそうも思う。
まあ確かにいつまでも沈んでいられたら困るけど・・・。
でもだからと言って気にしなさ過ぎるのも・・・またどうかと思う。
そんな二つの思いが交差しあって、なんとも言えない気分になる。
ともかく・・・今日の朝は例の約束の話なんかしてすっかり盛りあがっていた。
育人君はあの驚きようにしては随分気楽な感じで気にかけていそうな感じは全然なかった。
そればかりかその約束で私の新居に来ることを楽しみにしてるみたい。
それはそれで一安心で、始めからどう育人君に言おうかと悩むことは意味がないとでもいいたげな感じだった。
なんだかなぁ・・・。
それでその約束の話についつい没頭してしまって、すっかり時間を忘れてしまい遅刻をしそうなところだった。
まあそれほど育人君とは仲が良くて・・・。
でも昨日のあれから美樹ちゃんと仁志君はなんだか仲が悪い。
美樹ちゃんに便乗して仁志君も私の新居に来たいと言い出して、それに美樹ちゃんが焼きもち(?)を焼いて・・・結果、喧嘩(?)になっ
た。
あれから昼休みの終わり、チャイムが鳴るまで2人ともずっと揉めていた。
それはまたいつも仲のいい2人だったものだからこうも揉め事なんかがあるとそれが噂になるのは必然的。
勿論周囲からも物珍しそうに見られるわけで、一種の見物と化していた。
その場に立ち合わせて、しかも揉める原因は私の新居のことだから、どうも私には2人を仲直りさせる義務があるような気がする。
でも私が2人と居た時間はまだほんの2ヶ月ほど。
小学生以前からずっと一緒に居るはずの育人君でさえも過去にこう言うことが無かったらしくどうすればいいか悩んでいるらしい。
昼休み、とりあえず何故こうなったかとそのわけを訊こうと思って早速訊いてみる。
「美樹ちゃん、昨日のことなんだけど・・・」
「ああ昨日の・・・あれ?」
「う、うん」
「そういやまだ日にち決めてなかったよね?」
そりゃ確かに日にちは決めてないけど・・・。
「いや、そうじゃなくて・・・仁志君のことなんだけど」
「ん・・・あれはさ・・・その、あれよ」
「あれじゃあ分からないんだけど・・・」
「だって仁志、突然あんなこと言い出すからさ。それも育人より先に」
「育人君より先にって・・・?」
「え、いや、育人よりも先に仁志が皐月ちゃんと約束をとりつけると育人の立場、無くなっちゃうでしょ?」
「う、うん」
「だから・・・ね。それに・・・」
「それに?」
「仁志って実際そんなに器用じゃないから多分二股とかそんなのはかけられないって思うんだけど・・・」
二股って美樹ちゃんと・・・私!?
幾ら仁志君が器用だったとしても、私が育人君を置いて仁志君と付き合うなんてことは・・・たぶんないだろう。
それに仁志君と私が付き合うってことは美樹ちゃんからも、とるってことになるし。
そんな恋のライバルとかそう言う上にある友情じゃあるまいし・・・。
「私は万一、仁志に二股とかかけられたとしても、それを取り戻すのは簡単なんだけどね」
簡単・・・ってそのときは一体何をするつもり・・・。
「でもそうなると育人の立場がまるでないじゃない?ま、私が代わりに付き合ってもいいんだけどね」
私が付き合っても・・・って、前提がすっかり私が仁志君と付き合ってるってことになってる・・・。
「でも育人、立ち直るのに時間かかるから・・・それに、そうなったらとり返さなきゃ気が済まないと思うしね」
だから私は幾ら仁志君が家に1人で来たとしても仁志君と付き合う気なんて更々ないって。
「だから私が代わりに付き合おうかなんて言っても育人は乗り気にはならないんじゃないかなぁ・・・」
「なんで私が仁志君と・・・」
「あくまで、か・て・い。分かる?」
「そりゃ、分かるけど・・・でも・・・ねぇ?」
「まあそんなに深く考えないの。だから私は育人に、仁志よりも先に皐月ちゃんに言う機会を作ろうと思ったんだって」
私はすっかり焼きもちを焼いているのかと思っていたんだけど・・・。
「でも仁志、そのことに気付いていると思う?」
「さぁ・・・」
「ああ見えて仁志も結構鈍感だからなぁ、分かってないかもしれないね」
なんて、苦笑いしてる。
もしかしてある意味、1番賢いのは美樹ちゃんだったりして・・・。
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つかれたんだよ、バカヤロー
凛楓です
最近頭が痛いです
なのであとがきもなし!
あれから、幾らか育人君と雑談を交わしているうちに学校についていた。
その間、歩はただ無意識のうちに前へと進み、あの坂を何時越えたのかさえはっきりしない。
こうして育人君と来るようになってから、あの坂の存在は私の中で段々と薄く消えかけている。
まるで二人の間に立ちはだかる高く厚い壁のように。
それに育人君と話していると時間さえも止まっているような感じがする。
私はそう感じているものの、『時』はただただ何にも憚(はばか)れずに進んでいく。
延々と・・・次の土曜日さえも通り越して・・・いつまでも・・・。
人の想いも、その変化も、その強さも、何にも構うことのないように・・・。
それは私と育人君が教室に入っても相変わらずで。
でも育人君とはその『時』こそ気にせずに、いつまでも話していたい気分。
そんな気分で、話し続けて・・・。
でも次の土曜日、そう引越しのことだけはどれだけ話しこんでも忘れることができなくて。
そんな想いを乗せて時は流れてやがて、昼休みになる。
心に告げると決めたその時に。
「あのさぁ・・・実は言っておかなきゃならないことがあって」
「えっ?」
育人君と美樹ちゃん、それに仁志君が異口同音に返す。
それも育人君は特にだけどみんなきょとんとした雰囲気で。
「実は、次の土曜日に・・・引っ越すことになって・・・」
「ええっ!?」
と、育人君は大声で驚くものだから、クラス中が何があったか知らんと育人君を見つめる。
また随分とオーバーな・・・。
「そうか、引っ越すのか・・・」
と、育人君に対して随分慎重な面持ちの仁志君。
「なんか朝から変だなと思ってたらそういうこと・・・」
そう言ったあと、美樹ちゃんは心配そうに私と育人君を交互に見る。
そしてその育人君は黙りこくっている。
「あ、でも・・・そんなに遠くないからここには通えるんだけど・・・」
「と、言うと何所に引っ越すの?」
と、美樹ちゃんが問う。
「あの遊園地に行くときに通った瑞井駅の近くの団地なんだけど・・・」
「それならここからそんなに遠くもないな」
と、仁志君が言うものの育人君は相変わらずで。
仁志君と美樹ちゃんが知る由もない二人にとって大切なあの朝の時間・・・。
全ての切欠(きっかけ)はあの時間が生んだ賜物(たまもの)であって・・・。
もしなければ私は育人君にとってただの転校生でしかなかった・・・。
互いに隣人であることなど気付かぬまま過ごしていただろう・・・。
そんな大切な時間が消えてなくなってしまうわけだから・・・。
そりゃ私だって相当ショックを受けているわけだし・・・。
あんな育人君の事だからそれはもう私以上に・・・。
大分ショックを、受けているはずだろうし・・・。
あれから一言とも喋らないままだし・・・。
私もそんな育人君が心配だし・・・。
坂という壁の代わりにまた・・・。
別の壁ができてしまう・・・。
また邪魔ができて・・・。
「ねぇ、またそこに遊びにいっていいでしょ?」
と、浸(ひた)っていた私に美樹ちゃんが言う。
「えっ、うん。それはもちろん」
「じゃあ俺も」
と、仁志君が美樹ちゃんに便乗する。
「えっ、仁志も?」
「なんだよ、美樹。俺が行っちゃ悪いのか?」
「ダメダメ、私がいるのに態々(わざわざ)皐月ちゃんの所に行かなくてもいいでしょ」
「瑞井の辺りは行ったことないから、1度行ってみたいと思ったんだよ」
「へぇ・・・。本当に?」
「ほ、本当だよ」
「まさか股かけようなんて考えてないでしょうね?」
「俺が育人から皐月ちゃんをとるわけないだろ」
と、仁志君が断固として否定する。
「さあ、それはどうだか・・・」
なんだか二人の間に黒い雲が漂う。
それも段々エスカレートして喧嘩してるように聞こえるんだけど。
それに何時の間にかクラス中が二人に注目しててここにいるのが恥ずかしくなってくる。
別に私としては仁志君が来ても構わないんだけど・・・。
「あのさぁ、僕も行っていい?」
と、しばらく黙っていた育人君がやっと口を開く。
「それはもちろん。逆に来て欲しいくらい」
「なら是非、行かせてもらうよ」
「じゃあそのときはクッキーでも用意して待ってるね」
「うん」
「で、何時(いつ)来る?」
「僕は何時でも」
「じゃあ来週は越したばかりだし忙しいから、その次の日曜日は?」
「いいよ。ならその日は空けておくよ」
というわけで、育人君とは早速約束はしたものの、この二人はどうなることやら。
_______________________
本日は都合によりあとがきは書きません
でもそれはあくまで最悪の事態を免れただけであって、一種の不幸であったことには相違ないはずだ。
それに育人君とは付き合っているわけだし、そのことを伝える必要がある。
それは、もちろん美樹ちゃんや仁志君にもだけど。
私自身もそれを聞いたときにショックを受けたわけだから、育人君もそうだろう。
すると、そのことをいつ伝えるべきなのかまた問題で。
・・・なんてことを昨日考えていた。
着替え終わったあと、いつものように階段を降りる。
朝のこの時間もあと少しだけ。
そう思うと育人君に心から明るく振舞うことなんてできそうにもない。
やったとしてもそれは無理矢理であって・・・。
でもだからと言って育人君に心配をかけるわけにも行かない。
いつも通り・・・にはできそうもないけどもとりあえずはそう振舞うしかない。
廊下をぬけ、玄関のドアを開ける。
今日は私の方が早いみたいで、育人君はまだいない。
外は昨日の夜に降り積もった雪で一面真っ白。
道路には幾らか足跡や車のタイヤの跡がある。
でも空は晴れていて白い雲が所々に浮かんでいるだけ。
太陽の日差しが雪に反射してきらきらと輝いている。
そんな空を見ながら微妙な面持ちで想いを馳(は)せる。
ここから見る空ももうすぐ見れなくなってしまうのだろうか。
こうした時間ももうすぐ消えてなくなってしまうのだろうか。
あの赤いポストから新聞を出すこともなくなってしまうのだろうか。
なんだかそれがまだ信じられなくて・・・。
「・・・皐月さん?」
急に呼ばれて振りかえるといつ出てきたのだろうか、そこには育人君が立っていた。
「あっ、おはようっ」
「おはよう。それより何かあったわけ?挨拶しても、返事ないし」
あれ、育人君、いつ挨拶なんてしたんだろう・・・。
「えっ、別に何もないよ?いつもと同じ」
「そう?」
「そうそう。じゃあまた30分後ね」
「えっ、うん」
なんて、手早く新聞を取って家に戻る。
それにしても育人君が挨拶しても気付かなかったなんて一体どうしたんだろう。
――それから30分ほど――
「待った?」
「いや、今出てきたとこだよ」
なんて、いつも通りの会話を交わす。
そのいつも通りの会話を聞いて益々心が痛み、育人君に対して引っ越しの話をし辛くなる。
それにこうしていると引越しをすることと育人君を想うことに潰されてしまいそうな感じがする。
たしかに育人君と別れようと思えば何時でもできることだ。
しかし、こうまでして付き合いたいと思ったわけだからそれはしたくない。
ならせめて、引越しするということから自分の気を紛らわせたい。
そう思い、適当に話題を待ち出す。
「そういや、趣味って何?」
「えっ趣味?僕は読書かな」
「読書?例えばどんな本?」
「あの映画化された海外のファンタジーとか・・・」
というと、あの魔法の・・・。
あれは、本屋へ行くと翻訳されたものが売ってあるのをよく目にする。
最近、売れ筋のいいベストセラーだ。
「へぇ。あれは美樹ちゃんと見に行ったことがあるんだけど」
「僕も仁志と行ったけど・・・。じゃあ、皐月さんの趣味って?」
訊くと訊かれるわけで。
「私?私は・・・手芸とかもやるけどやっぱりお菓子作りかな」
「ってことは、ケーキとか作ったりするわけ?」
「うん。クッキーとか、そういうの」
「へぇ。それは皐月さんの作ったものだから、美味しいんだろうな」
それを聞いてまた一層心が痛む。
気を紛らわすために、持ちかけたはずなのにどうしてもここへ戻ってくる。
どうせ戻ってくるなら・・・早く言ってしまって楽になりたい。
それも兼ねて学校についたら3人に話してしまおう。
改めてそう心に誓った。
凛楓です
作中に登場した魔法の・・・・はあれです、ええ、あれです
この物語の年代と皐月、育人の年齢とかを考えるとめちゃめちゃな矛盾点が存在することに気が付きますが、そこはまあ置いといてください
さてさて、1話からちゃんと読んでくれてる人にはわかるでしょうが、皐月が育人に引っ越しを話した時にどのような態度をとられるかにチェックです
では
学校も終わり、家に帰り、宿題を終わらせる。
それから夕食をお母さんと摂ってからしばらくして、お父さんが帰ってきた。
それで何やら話があるといって1度立ったイスにまた座らされる。
室内にはただついているだけのテレビの音が響く。
ただそれだけで家の中はしんとしている。
窓からは雪がしんしんと降るのが見える。
それからしばらくしてお父さんが口を開いた。
「実はまた引っ越すことになった」
「えっ、引っ越し!?」
「ああ」
昨日、観覧車で満を持して(?)育人君に告白。
晴れて2人は付き合うことになった。
それで学校ででも美樹ちゃんと仁志君に付き合うことになったと言ったばかりなのに。
でもこれではそれも海の藻屑(もくず)!?
私の苦労は一体何・・・。
たしかに引っ越しには慣れているものの、付き合っている状態でってのは初めてで・・・。
確かに転勤族だから何(いず)れは引っ越すことがあるというのは最初から分かっていた。
でもそれにしては早過ぎないはしないだろうか?
そういえば以前に育人君にしばらくいられそうだと覚正を得た上で話したのはどうなるんだろう。
あれもここに引っ越す前にお父さんがそう言っていたから育人君に伝えたのだけども。
「えっ、だってここにはしばらくいられそうだって・・・」
「それがなんだか急でな」
急で・・・ってそれじゃ何も説明にはなってない。
そりゃたしかに遠距離恋愛っいうのもありだから育人君と態々別れる必要はないと思うけど・・・。
でもだからと言ってそれが平気だとかそういうことには決して結びつかない。
確かにいままで幾らか付き合った経験はある。
けども、転勤族だってことを話すと遠距離恋愛は辛いだろうって気遣ってもらって付き合ってもまた元に戻ってしまっていた。
だから、引っ越しするまでに別れてしまうことが殆どで。
たしかに育人君にもそういうことは話したけどもそれを知った上で育人君はいいって言ってくれた訳だけども。
それはもちろん色んな意味で嬉しかった。
しかしそれにしても遠距離恋愛であることには何も変わりはない。
遠距離恋愛は経験したことがないからなんとも言えないけど・・・。
でも、愛しい人がいてもスケジュールを合わせてでないと会えないし、遠ければ遠いほどその機会も減る。
それはもちろん片思いよりも増して辛いことには相違ないだろう。
電話だけで顔が見られないのはやっぱり・・・。
「それでな、引っ越し先なんだが・・・」
既に半ば放心状態で引っ越し先なんてどうでもって状況で・・・。
なんて言ったっていままで引っ越す先は遠いところばかりで遠距離になるのは避けられないだろうと思っていたから。
近いところに引っ越すような見込みなんてこれっぽっちも・・・。
「ここから二駅ほど行った先の瑞井駅の近くの団地なんだが」
なんだまた遠いところか・・・って、ええ!?
瑞井駅というと、冨田パークに行くときに通ったあの駅?
なら、大して時間もかからない。
それに今まで通りここの高校に通うことができる。
たしかに少し駅から歩かなきゃ行けないけど・・・。
なら、そうも心配する必要はないんじゃないかとも思うけど。
でも、朝にああして会えないことは変わりはないか・・・。
クラスも一緒だから学校では会えるけど。
学校で会えるにしても引っ越すことは確かだし朝に会う機会もなくなるわけだから一緒にいられる時間は減る。
それで育人君がどう言う反応を示すかは分からないけど・・・。
一体いつ、どうやって育人君にそのことを話すかがまた問題。
そういや引っ越すのはいつだろうか。
「それで、引っ越すのはいつ?」
「今週の土曜辺りにしようかと思うのだが」
今週の土曜日はとカレンダーを見ると28日。
そう早くもないけど・・・。
それからお風呂に入って明日の準備をしてベットについた。いつもと同じ流れなのに何か落ちつかない。
全てのきっかけになった朝のあの時間がなくなってしまうというのがまだ信じられない。
信じられないけども、それが事実でいままでの隣人であったと言う関係もなくなるわけで。
付き合っていると言う関係も高校も変わらない。
なのに、なんだかただ少し住む場所が変わるというだけで、落ちつかなくて切なくて愛しくて・・・。
なんだかそんな気持ちに押しつぶされそうな自分がいた。
起きてから制服姿に着替え早速玄関へと向かう。
そして玄関を開ける。
それとほぼ同じくらいに育人君の家の玄関も開く。
「おはよ~、育人君」
「おはよ~」
「今日も一緒に行くでしょ?」
「もちろん」
『今日も』というのも、あの日から毎日一緒に行っているからだ。
だから昨日も育人君が『もう既に』なんて言ったわけで。
そりゃたしかにああ言わなくても既に付き合ってるようなものだけど・・・事実としてあって欲しくて。
そういや美樹ちゃんと仁志君もそういう告白とかしたのだろうか。
いつの間にか・・・なんて言ってたけど。
「じゃあまた30分後ね」
「うん」
――それからおよそ30分後――
昨日遊園地で帰り際に買ってきた遊園地のマスコットのキーホルダーをカバンにつける。
もちろん観覧車でのあと、5時までの暇つぶしに南ゲート近くのお土産屋で買ったものだ。
育人君とその辺りの店をぶらぶらとしていてなんとなくいいなと思って買ってみたもの。
周りから見るといかにもお土産を探しているように見えたと思う。
そりゃ、お土産屋なのだから無理もないけども。
ともかくそろそろ時間なので育人君も待っていることだし外へと出る。
「待った~?」
「いや、今出てきたとこだよ」
「それじゃあいこ」
「うん」
あれから育人君はやけにテンションが高くて・・・いや、これが普通だろうか。
ともかくいままでよりは高くて、そのぶん私としては余計な気を使う必要がないからいいけども。
しかし若干浮かれ過ぎではと思うところもあることにはある。
育人君だって以前の仁志君の話によると別に付き合うのが初めてではないらしい。
なら別にそんなに浮かれなくてもと思う。
まあ、育人君はそんな風だから付き合ってることを十分に実感してるみたいだけど、それに対して私はどうもそうは思わない。
なんだか私自身はあれ以前、ようは観覧車に2人で乗る以前と何も変わってはいないような気がする。
「なんだかなぁ・・・」
「ん?」
「いやこうしていてもね、なんだかいままでとあまり変わらないなと思ってね」
「そうかなぁ、僕は変わったと思うけど・・・」
「ん~例えば?」
「前よりも気楽には話せるようになったかなって」
それはあくまで育人君だけであって・・・。
「育人君はでしょ?私は大して変わらないなぁ」
「何か変わって欲しいって、そう思うわけ?」
「う~ん、だって付き合ってるってそういう実感があまりないし・・・」
「そうかなぁ・・・」
「少なくとも私はね」
「別にいいんじゃない?そのほうが気楽でいれるしさ」
気楽でいれる・・・って、育人君が最初から今のようならもっと気楽でいれたと思うけどな。
そりゃ、育人君のことだからそれは流石に無理だと思うけど。
前の時もそうだったって聞いてるし。
それで今の状態なら・・・やっぱり気楽か。
「私は元(はじめ)からそういうつもりなんだけどな」
「う~ん・・・。ところでさ、誕生日っていつ?」
って、何故突然誕生日のことなんか・・・。
「えっ、誕生日?」
「うん」
実はまだ迎えてはいない。
要するに高一と言えど15歳であって。
「2月の24日だけど・・・。育人君は?」
「ならもうすぐかぁ。僕は9月5日」
「ってことはもう16?」
「うん」
ってことは実質一つ上か。
なんだかなぁ。
「へぇ・・・。しかし、なんで突然誕生日のことなんか?」
「えっ、だってやっぱりそれだけは知っておかなきゃいけないでしょ?」
それだけって誕生日訊いたらそれで満足?
まあそんなことはないだろうけど。
恐らくまず最初にこれだけは・・・って意味だろう。
でもその言い方は流石に誤解されるのでは・・・。
例えばこういう風に。
「じゃあ他のことは別に知らなくてもいいってこと?」
なんて言ったりすると・・・。
「えっ、別にそういうわけじゃないけど・・・」
やっぱり、そうくると思った。
結局のところ私が押すとそれを育人君が押し返すことはあまりないらしい。
そんなのでいいのかなぁ・・・。
「まあいいか。別にそんなに急ぐことは無いんだし。知格(ともかく)2月24日は楽しみにしてるよ」
「そりゃもうもちろん、期待してて」
とりあえずこれで、今年の誕生日に楽しみが一つ増えることとなった
あれっきりあまり喋らないし・・・。
逆効果だったかな、なんて思ったりもする。
でも別に育人君と手をつないでるのも悪い気もしないし、あれからずっとそのまま。
どちらかというとこうしてつないでいるほうがいいかななんて思う。
とくに力が入ってるわけでもないし、軽く握ってるという感じで。
おかげでこの寒い1月に頬と手はぽかぽかしている。
それでその手はつながれたまま次の目的地、観覧車へと向かう。
「ねぇ、ピンクの観覧車の意味って知ってる?」
と、あれから気になっていたことを訊く。
「えっ、ピンク?」
「そうそう。美樹ちゃんと仁志君が言ってたんだけど」
「皐月さんも?」
「私もって育人君も?」
「うん。『乗るならそれに限る』って仁志がね」
「へぇ、美樹ちゃんも『一つだけピンクになっている理由を知ってる?』って」
「2人ともにいうんだから、よほどピンクの観覧車には何かあるんじゃない?」
「なら、とりあえずその観覧車のほうに行ってみない?」
「うん」
と、その答えは観覧車についてからと先延ばしになった。
3度目になる公園を抜け、観覧車へと向かう。
家族連れやカップルが多い道を自分もまた一つのカップルとして抜けるものの、なんだか違和感を感じる。
たしかに育人君とはこうしてはいるけど、付き合ってるなんて一言も言ったこともない。
まあたしかに俗世間ではこういうのを付き合っているというのだろうけども。
でも関係は友達って感じだと思う。
西側の道を抜け大きな広場に出るとそこに観覧車があった。
黄色いボディの中に一つ、ピンクのボディのがある。
「仁志と美樹が言ってたのはあれか・・・」
「とりあえず、この列に並ぼう」
それで列の後ろへと並ぶ。
それから幾らか話した頃、気付けば列の前のほうへと来ていた。
観覧車のほうもピンクのがもうすぐ地上に来る。
「やっぱりピンクのに乗るのかなぁ・・・」
「ピンクのに乗るのは嫌?」
「そんなことはないけど・・・。よく分からないけどなんだか少し怖くてさ」
なんだかそれ、分かる気がする。
「私も・・・少し」
それで乗ったのはあのピンク。観覧車は二人の想いを乗せて回りゆく。
「ピンク・・・だよね?」
「うん・・・」
一つだけピンクの色をしてるといえども、中はごく普通。
普通過ぎて、これがその特別なピンクのだと信じ難い。
逆に何も変わりないのが怖いくらい。
それで、その普通過ぎる観覧車に育人君と向かい合わせで座る。
なんだか気恥ずかしい。
逆に隣同士のほうが落ちついていられたと思う。
そう言えば、以前に育人君に直接訊けば・・・と思ったことがあったことを思い出す。
あのときはこんな関係じゃなくてかなりぎこちなかったけど今なら多分答えは聴けると思う。
そりゃ、少しは押さないと無理だろうけども。
早速、そう思って訊いて見る。
「あのさ・・・育人君って・・・私のこと、どう思ってるの?」
「えっ、僕は・・・」
やっぱり・・・。
で、流石に自分も恥ずかしいけれども育人君を押してみる。
「私は・・・好きだよ、育人君のこと」
さっきからだが、それにも増して何か熱いものが胸のうちからこみ上げてくる。
勿論脈は速いし、頬も熱い。
「僕も・・・勿論好きだよ」
「よかった。なら別に付き合ってもいいでしょ?」
「え、もう既に付き合ってるようなものじゃないわけ?」
「言ってしまえばそうなんだけど・・・改めてってことで・・・。ね?」
「えっ、うん。それは喜んで」
と、言うことで育人君と私は正式(?)に付き合うことになった。
「はぁ、なんだか緊張したら疲れちゃった・・・」
「僕も・・・」
でも観覧車はまだ半分ちょっと超えたくらい。
あと半分このままというのもなんだから、いっそのこと・・・。
「そうだ、乗りかかった舟だし下につくまでに・・・キスしない?」
「えっ、キス?」
「そうそう。どうせ2人っきりだしね」
「僕は・・・構わないけど・・・」
「なら私もこっちね」
というわけで、流石にファーストキスではないものの育人君とキスをした。
多分、人に見せられないほど頬は赤かっただろうけども。
でも、このときは自らが転勤族であることはすっかり忘れていたのだった。
それは、ひとときの至福でもあり、のちの苦でもあったのだった。
________________________________
はいはい、琴夫君です。
さあ!きましたきました、キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!! って感じです。
とうとう告っちゃいましたねぇ、2人。
正直言って、書いてて自分がかなりはずかしかったです。
さてさて、この先こうなるのかというと、それは見てのおたのしみ。
では、24話でお会いしましょう。
私はなんだかイマイチ魅力に欠けていたと思う。
でもああして長蛇の列が出来ると言うことはそれ相当に違いない。
それとも何か美味しいのはお店の料理でなくてある特定の品物だったのだろうか。
だとすればあの店に行ったことは大して意味も無いような。
でもそれなら何故美樹ちゃんがその特定の品物がと言わなかったのかというのがまた謎。
ともかく味はまあまあのイタリア料理店を後にし、植物園へと向かうことにした。
植物園は中央の公園から見て東側。
南北にはしる道よりも細いものの遊園地と植物園を結ぶ東西にはしる道もある。
この道は北ゲート、南ゲートを結ぶ道とは違い地面は細かい砂敷。
因みに南北にのびる道は赤いレンガで形作られている。
公園は南北にはしる道と同じく赤いレンガ造り。
中央の公園から観覧車・植物園までは横道はなく、一直線。
一方、南北ゲートを入ったところはお土産屋が軒(のき)を連ねる。
北ゲート側は前に言った通りレストラン街。
南ゲート側は桜並木がゲートから公園まで続いている。
レストラン街から公園を抜け、2、3分ほど歩いたところにその植物園はあった。
それは大きなビニールハウスが幾つかくっついたような形をしていた。
早速そのドアを開け、中に入る。
室内は暖房が効いていてポカポカと暖かい。
そして入ったところには右と左に入り口があり、看板が吊ってあった。
[特展:世界の植物展]─┸─[フラワーガーデン]
「どっちにする?」
「う~ん、どっちでもいいけど・・・。育人君はどっちがいいの?」
「えっ、僕?僕もどっちでもいいけど・・・」
どっちでもいい・・・では話は進まない。
「じゃあ、ジャンケンして私が勝ったらフラワーガーデン、育人君が勝ったら植物展ね」
「うん」
で、結果は私の勝ち。
「なら、こっちね」
フラワーガーデンに入るとそこは一面の花で、砂張りの道がその間に通っている。
チューリップがメインのようで他にはストックや石楠花(しゃくなげ)、菫(すみれ)、蓮華(れんげ)など。
どうも春、とくに4月辺りの花がメインらしい。
そしてその砂張りの道をまるで学校に行くときのように二人で並んで歩く。
今日はどうも常に育人君といられるせいか大してドキドキもしない。
というより育人君と一緒に2人きりでいる時は・・・なのだろうか。
別に嫌いって訳でないし、寧ろ好きというか・・・そんな感じ。
一緒にいるときはなんだか・・・なんとも言えない気になる。
和むというか安らぐというか癒されるというか・・・。
どうせならもっと距離を縮められたら・・・なんて思ってみたり。
なんだかそう想うときだけ頬が熱くなる。
一緒にいるときは大してそうもならないのに。
なんだか不思議なものだ。
ともかく喋らずにただ歩いているだけなんてつまらないので話題を探す。
「ねぇねぇ、あれみて。あのチューリップの色、綺麗じゃない?」
と、ピンクと黄、紫の混色のチューリップの方を指差す。
「えっ、うん」
って、ただそれだけで何も進む様子がない。
いや、花にはその魅力ってものを感じないのだろうかなんて思ったりする。
で、しばらく歩いてからもう一度。
「あれも綺麗じゃない?」
「うん、綺麗だけど・・・」
「え、何かあった?」
「いや、なんでもないよ」
なんか様子が変。
それでしばらく経ってからもう一度やってみる。
「あの花、可愛いよね?」
「うん」
・・・ってまた空返事?
なんだかノリが悪いなぁ。
いや、言ってしまえばいつものことなんだけど。
いつもに増してと言うべきか。
なんだか癪(しゃく)で少し驚かしてみることにした。
どうせこうして一緒にいててもまだあれをしたことがないのだし、いっそのこと・・・。
『中間地点』の看板が見えた頃、いかにも自然にという風に育人君の手を握ってみる。
「えっ?」
「あ、いやだった?」
なんて言ってみたりする。
「いや、そんなことはないけどただ・・・」
「ただ?」
「急だったから少し驚いて・・・」
やっぱり目論見通り驚いているらしい。
「なんだ。なら別にこうしていてもいいよね」
そうして手は握ったまま残り半分を歩いて行くことにした。
でもそれであがってしまったのかその残り半分も同じような感じで・・・。
結局驚かしただけで終わり?
美樹ちゃんと仁志君が公園の北ゲート側から出ていったあと、育人君と昼食をとることにした。
園内に入ったとき南ゲートでもらったパンフレットを参考に、美樹ちゃんに教えられたお店を探している。
美樹ちゃんが言うには北ゲート側の通りに美味しいイタリア料理店があるらしい。
その料理店の名前は、小文字のFを二つ、筆記体で並べて『フォルティッシモ』
音楽好きの店長さんじゃないかと思う。
「この辺りじゃないかな」
パンフレットの地図によるとこの辺りにあるはず。
「もしかしてあれじゃない?」
と、育人君が『ITALIAN』と書かれた看板のある店を指差す。
ここは食券を買ってそれと引き換えでもらうという仕組み。
店の前には長蛇の列ができている。
「たぶん、そうだと思う。でも結構混んでるよね」
「どうする?」
「折角(せっかく)ここまで来たのだから勿論、並ぶでしょ」
私は育人君にそう言って、長蛇の後尾へとつく。
育人君もそのあとにつく。
「そんなにここのって美味しいわけ?」
と、訊かれても困る。
とりあえず内の事情を説明する。
「来たのは初めてだけど・・・美樹ちゃんがここは美味しいって教えてくれて」
「美樹が?」
「うん。食べるならここがいいって」
「へぇ・・・」
あんなに長かった列も何時の間にか先頭についていた。
それで、店の人が空いている席へと案内してくれる。
「それではどうぞ」
白い、テラスにでもありそうなイスとテーブル。
テーブルの真ん中にはパラソルがつけられていて日よけになっている。
でも今は1月だからあまり意味はないけども。
そのイスの上に荷物を置き、食券を買いにいく。
券売機の上には、様々な種類のピザやパスタの写真が並んでいる。
なんとなくパスタが食べたいなってそんな気分で、その中からカルボナーラを選んでボタンを押す。
そして人の流れに乗りながらカウンターでその券と引き換えに番号札をもらう。
やはりこう多いとそうせざる追えないのだろう。
交換し終えた私はさっき荷物を置いた席へと戻る。
「何頼んだ?」
なんだか育人君の方から話してくるのは初めてのような。
それも疑問で。
「え、カルボナーラだけど・・・育人君は?」
「僕はサラミ」
「あっ、ピザのほう?」
「うん」
それからしばらくして番号札に書かれている番号を呼ばれ、カウンターへとピザをとりに行った。
流石に、育人君の方が先に行ったので早かった。
ちょうど育人君が帰ってくるときに呼ばれ、私もとりに行く。
やはり券売機の上の絵とは少し違う。
そしてまた自分の席へと戻り、早速食べ始める。
「で、美樹ちゃんがいうだけのことはあると思う?」
「う~ん・・・」
「どう?」
「そりゃ、美味しいとは思うけど・・・。あまり外食もしないからそれ以上はなんとも・・・」
なんとも・・・ってそれではまた続けようにも続けられない。
しょうがないので話題を変えることにする。
「う~ん・・・。この後何所か行きたいところある?」
「仁志と美樹が勧めるし、どうせだなら観覧車には乗りたいけど・・・」
どうやら育人君も推されていたみたい。
やはりピンクの・・・なんだろうか。
「うん、それは私も。他は?」
「他は・・・とくにないけど・・・」
なんだかどうも絶叫系とかそういうのでなくて、静かで居れるところに行きたい。
流石に育人君であろうとも前で叫ぶのは気が引ける。
「なら、観覧車の向かいの植物園に行かない?」
「植物園に?別に構わないけど」
「なら食べた後、植物園に行って観覧車ね」
「う、うん」
なんかまた何時もの展開というのだろうか。
ともかく、食べ終わって返しに行った後、植物園へと行くことになった。
先生の家族がソフトクリームを食べ終えてこの公園を出ていった。
そのあと、美樹ちゃんと仁志君に話しかけられ、それから4人で話している。
「それでさ、この遊園地はどう?」
今は木に葉っぱこそついてはいないが木は沢山ある。
公園を取り囲むのは桜の木らしく、春に咲くために蕾(つぼみ)をつけている。
先日降った雪がまだ溶けずにその桜の木や、園内にあるツツジの木に残っている。
他にも木蓮(もくれん)や百日紅(さるすべり)、金木犀(きんもくせい)などの木が植わっていると書いてあった。
それに植物園には世界のさまざまな珍しい花を展示する企画がされているらしい。
それなら答えはもちろん。
「いいところだと思うけど・・・」
「ならよかった」
「それより育人、久し振りに2人だけで話さないか?」
なんて、仁志君が育人君に提案している。
「別に構わないけど?」
「なら、向こうのベンチに行こう。そう言うことだから美樹、あとはよろしく」
「任せといて」
そう言って育人君と仁志君は隣のベンチに行く。
「任せといて・・・って?」
「え、私そんなこと言った?」
「うん」
「言った覚えはないけどな、空耳じゃない?」
なんて、恍(とぼ)けている。
「ところでどう?育人とは」
「どうって言われても・・・」
「いや、だって2人っきりって今日が初めてでしょ?」
こんな質問をするのも、無理はない。
美樹ちゃんは家が隣同士だってことは勿論知っている。
でも、朝新聞を取りに出るときに会ったり一緒に学校に来ている事など知る由(よし)もないのだから。
「いやそうでもないけど」
「え、そうなの?まあ家が隣だしね」
「うん、だからとくに話し辛いってこともないけど」
「ならよかった、2人きりにしちゃったから心配してたんだ」
「仁志君と?」
「うん。でもその心配もないみたいだから安心したよ」
「ところでさ、入る前に久しぶりって言ってたけどここに来たことってあるの?」
「一度だけね、仁志と」
「へぇ・・・」
「そのときは初デートでさ、2人とも緊張してて」
「うん」
「それでここで最後に乗ったのがあの観覧車だったんだ」
この遊園地ではどうやらシンボルみたいだし、美樹ちゃんも勧めることだからどうせなら乗ってみようかな。
「でも惜しくもピンクのには乗り損ねたけどね」
「この間からピンク、ピンクって言ってるけどホントは何があるの?」
「それは乗ってみればわかると思うよ」
「乗らなきゃわからないこと?」
「ん~そうとはいいきれないけど」
「え、どういうこと?」
「外で待ってる人の様子を見てもわかるかなって」
「外で待ってる人?」
「そう。ま、行ってからのお楽しみってことでさ」
「う~ん・・・」
なんだかどうもしっくりこないし、すっきりしない。
それからしばらくして隣のベンチから育人君と仁志君が戻ってきた。
そしてまた4人でいろいろと話した。
「さてと、そろそろ行くか」
そう言って仁志君が立ち上がる。
それと共に美樹ちゃんも。
「じゃあ2人ともまた5時にね」
そう言うと二人は噴水を半周して南ゲート側へと抜けていった。
________________________________________________________
はい、どうも琴夫君です。
なんか、ここんとこあとがき書きまくりですなぁ。
3話もなんて・・・・
今話では、美樹と仁志が皐月たちを見つけて戻ってきたところです。
しかも、実質上に、第20話で小説の半分(予定)まできてしまったんですよ!
まあ、SP編とかetc編とか作って長くするもいいかなぁ、と思っています。
では、今日はこの辺で・・・
入場料を払うためには大して並ぶことはなかったが、中は思いの他混んでいた。
日曜だけあってさまざまな年代の人が園内を動き回っている。
まだ小学生にも満たない子ども達は片手に風船を握っていたりもする。
園内は中央に大きな公園があり、その北側と南側にそれぞれ入り口がある。
入り口からは公園に向って直線の道があり、その道に対して左右に道が幾つもある。
西側にはあの大きな観覧車があり、東側には植物園が広がっている。
私と育人君は北ゲートから中央にある公園へ行き噴水を取り巻くベンチへ行く。
「それで・・・何に乗る?」
「もしよかったら、しばらくここにいない?」
遊園地といえばアトラクションがメイン。
ならそれに乗ってこそきた意味があると思うのに育人君はここにいたいなんて言う。
「えっ、なんで?」
「なんだか、しばらくここでこうしていたくて」
と、自分で言って頬を赤くしている。
「ふ~ん・・・私と2人っきりで?」
「えっ、それは・・・」
なんかまた始まったなって気分になる。
こうなるとまた自分で進めないと話は一向に進む気配を見せない。
「なら、ここにいよう。しばらく」
「う、うん・・・」
「それにしても、美樹ちゃんと仁志君は何処に行ったんだろう・・・」
私はそう言って噴水の周囲を見渡す。
噴水の反対側に見覚えのある人がいる。
「あれってもしかして先生じゃない?」
育人君はそれを聞いて私の指差したほうを向く。
「そうみたいだけど・・・」
どうやら前のソフトクリーム屋で買ったソフトクリームを食べているよう。
「ねぇ、行ってみない?」
と育人君を誘う。
「でも行ったところで迷惑にならない?」
さっきとは打って変って尤(もっと)もな返事が返ってくる。
「う~ん、そうだね・・・」
なんだかあの先生がソフトクリームを食べているという状況が少し奇妙。
どうも先生とソフトクリームとがミスマッチだ。
先生は先に食べ終わってソフトクリーム屋の横においてあるゴミ箱にゴミを捨てに行く。
捨て終わって戻ってくるときに反射的にベンチの背もたれに育人君と隠れる。
それがなんだか可笑しくて2人で笑う。
先生の奥さんが子どもの分のゴミも纏めてゴミ箱へ捨てに行く。
奥さんの顔がベンチへの帰り際に見えた。
それが結構な美人で、先生がよく結婚できたなと思うくらいだった。
それからしばらくして先生の家族は、南ゲートのほうへ抜けていった。
「あれって家族サービスかな?」
「多分そうだと思うけど」
「でも先生に小学生の子どもがいるとは思わなかったよね」
「うん、先生訊いても歳明かしてくれないけど40は流石に超えているだろうから余計に」
「あれ、先生の歳ってわからないの?」
「今年度来た先生なんだけど、何度訊いても教えてくれなかったからみんな諦めちゃって」
「そうなんだ」
「それから先生の歳は明かされないままで・・・でも少なくとも40はいってるだろうなってみんな言
ってるけど」
「へぇ・・・」
「おい、育人」
後ろから育人君を呼ぶ声がするなと振りかえってみるとそこには美樹ちゃんと仁志君が立っていた。
________________________________________________________
はい、どうも琴夫です。
奇跡的に2話連続であとがきを書いてます。(ちゃんと書けよ!w)
今話では、遊園地に入って終わり!と思う方もいたかもしれませんが、まあ、勘弁してくださいな。
一応、僕の空想上では先生はああ、世間一般的に言うと2枚目っぽい漢字ですが、小説内では、イマイチ、という感じの顔になっていますw
それにくわえて奥さんのほうは、かなりの美人という顔になっています。(若い奥さんと空想し、最初に出てきたイメージがそんなだったので・・・)
じゃ、余話はこの辺にして、帰るとしますかな。ではでゃ、琴夫君でした。 はい
電車の背もたれをずらして向かい合って座る。
私は育人君の隣で通路側。
美樹ちゃんも仁志君の隣で通路側。
それこそ学校に行くときよりも遥かに育人君との距離が近い。
でも隣に育人君が座っているからといってドキドキするとかそういうことでもない。
どちらかといえばわくわくじゃないかと思うほど。
それで結局美樹ちゃんは仁志君と行くらしい。
ということは勿論私は育人君とということになる。
育人君との初デート。
そのせいもあってかドキドキよりもわくわくのほうが強いのだろう。
それで今はちょうど瑞井駅を過ぎたところ。
「そういえば2人って何時(いつ)から付き合ってるの?」
「え、付き合ってるなんて言ったことあった?」
「言ってないけど・・・でも付き合ってるんでしょ?」
「ん~まあ・・・一応ね」
「一応って、あのなぁ・・・」
と、仁志君が口をはさむ。
「それで何時から?」
「何時からと訊かれても・・・」
と、2人は顔を見合わせる。
「なんていうのかな、何時の間にかというか・・・」
「そう、別に告白とかそういうなのはなかったと思うけどよ」
何時の間にか・・・ではまるで育人君の立場がないと思う。
「な、育人」
と、仁志君が今まで窓の外を眺めていた育人君に話しかける。
「えっ、うん」
「でさ、遊園地に行くのってもしかしてデート兼ねてない?」
「えっ、いやそんなこと全然ないよ?」
「なら何で別行動なの?」
「だって、そのほうがいいでしょ?ね、育人」
と、育人君はまた思わぬところで話をふられる。
「えっ、別に・・・」
と、外の景色を眺めながらこっちを向こうとはしない。
「な、なら皐月ちゃんはどっちがいいの?」
「え、私?私は別にどっちでもいいけど・・・」
こうしてせっかく機会があるのだから内心、別行動のほうが・・・なんて思ったりする。
でもそれでは2人を邪魔に扱っているみたいで気が悪い。
だからそうであっても言うのには少し躊躇(ちゅうちょ)するし、なんと言っても恥ずかしい。
『冨田駅、冨田駅・・・』
「さ、着いたし降りよう」
そしてそれから改札を通り、南口から抜け、バスに乗り遊園地についた。
「なんか久し振り~」
と、美樹ちゃんが言う。
と言うことは来たことがあるのだろう。
「じゃあ5時にあのゲートの前でな」
と言って2人でゲートへ向って走っていく。
そして私と育人君は取り残される。
「とりあえず入らない?」
「うん」
それから2人でゲートへむけて歩いていった。
________________________________________________________
はい、どうも琴夫です。
ひさびさにあとがきを書きますわ。
今話では、皐月一向が遊園地についたところまでを描いてます。
育人はいまだ口数が少ない設定になっちゃってますが、それは育人の設定上はしかたのないことなのだろうか・・・。
今後はもう少し増やしていこうかなぁ、と思っている琴夫でした。 はい
私にはどうも遊園地に遊びに行くという印象よりも、Wデートであるという印象のほうが格段に大きい。
例えばみんなが誰とも付き合っていないだとか同性同士なら前者の印象があると思う。
でも今回はそうではない。
仁志君と美樹ちゃんは付き合っているとのこと。
それに、私は育人君とこうである以上・・・デートということになる。
たしかに告白したこともないし、告白されたこともないけども・・・。
なんだかそんなことを言わなくても自然にそんな風になっている。
言わずしてそうであるというのもどうも不思議な感じだと時々そう思うことがある。
ころで、集合の時間は8時半。
駅までは家から大凡(おおよそ)20分ほど。
8時くらいに家を出れば間に合うと思いそのつもりで動く。
そしてそれまでに用意を済まし、早速家を出る。
そういえば今日も新聞を取りに行ったもののそのときには育人君に会っていない。
しばらく待ってみたものの出てくる気配も一向にない。
仕方がない、どうせ駅で会うのだから変わらないだろうと思い、家へ入ったけれども。
そして駅へついたときにはもう仁志君と美樹ちゃんが来ていた。
時計の指す時間は8時20分を少し過ぎたところ。
待ち時間まで10分弱あるが、まだ育人君は来てはいないみたい。
「育人君はまだ?」
「そうみたいだけど、途中で会ってない?」
「いや、会ってたなら一緒に来てると思うし・・・」
そう言うと二人は少し驚いたみたい。
そして時は1分、2分と進んでいく。
でもまだ育人君は来る気配はない。
ついには、集合の時間にもなったもののまだ姿は見えない。
「育人、遅いなぁ・・・」
と、仁志君が言う。
「電車の出発時刻って何時(いつ)?」
「40分過ぎなんだけど・・・だから昨日態々(わざわざ)念を押しておいたのに」
と、今度は美樹ちゃんが言う。
それから2、3分ほど。
さっきから、その姿を探していた仁志君が指を差して私達に叫ぶ。
「あれ、育人じゃないか?」
その差すほうにはたしかに育人君らしい人影が見える。
そして、3人で育人君のほうへ駆けていく。
「ごめん、寝過ごしちゃって・・・」
育人君の息が荒い。
朝見かけなかったのもそのせいか。
「だから、昨日ああやって8時半に駅集合だって念を押しただろ?」
「う、うん・・・」
「ともかくもうすぐ電車来るから急ぐぞ」
と、仁志君が育人君に言う。
「あっ、うん・・・」
そのときには電車の出発時刻まで4分と迫っていた。
あの日から1週間ほど経った。
/
先週の土曜日。
あのあと教室に私が先に入ってそのあと続け様に育人君が来たということになる。
私はいつもより遅く、育人君はいつもより早い。
それに違和感を感じたのだろう。
仁志君が育人君に美樹ちゃんが私に、早いなだとか遅いねだとか言う。
それでもまさか二人が一緒に来たなんて思ってもいないと思う。
そういや美樹ちゃんがあの日遅れたのは何故だろうな・・・。
/
日曜日。
今日は勿論学校は休み。
そのせいか朝の立ち話が長い気がする。
でも何を話してたかは・・・あまりよく覚えてはいない。
ただ、そこでそうしていたということだけしか・・・。
/
月曜日。
この日は久々に美樹ちゃんが遊びにきた。
この前来たのはクリスマス・イヴの日か。
この日もまたバックを肩にかけていた。
今度は何やらビーズでアクセサリを作るらしい。
ベットの下に転がったビーズがとれないとか言ってたような・・・。
/
火曜日。
昼休み、お弁当を食べ終わって片付けているときに美樹ちゃんに呼ばれた。
今度行く遊園地の話らしい。
あの観覧車のうち一つだけピンクになっているわけを知ってる?、なんて訊かれる。
たしかにポスターにピンクのがあったけど。
でも行ったこともない遊園地のことを訊かれても・・・。
/
水曜日。
今度は仁志君に呼ばれる。
もし遊園地に行ったときに観覧車に乗るならピンクのにした方がいい。
仁志君もそんなことをいう。
ピンクのボディの観覧車には一体何があるのだろうか・・・。
/
木曜日。
学校で仁志君と美樹ちゃんの2人に観覧車について訊いても何も教えてくれない。
ただただ勧めるばかり。
それにしても一つだけあるなんて何か意味があるに違いないはず・・・。
/
金曜日。
あと2日と迫った。
しかし遊園地に行くからといって大してもっていくものもないような。
それに何も1週間なんて長い時間を置く必要はないと思うけど・・・。
/
そしてついに明日に迫った土曜日。
朝、育人君と楽しみだねなんて話をする。
態々(わざわざ)遊園地に行くのだからあの2人が何か考えているだろう。
育人君とデートか・・・。
なんだかわくわくするようなドキドキするような変な感じだった。
土曜日。
あの昨日の昼休みから打ち解けて、なんとか普通に会話を醸(かも)せるくらいになった。
昨日の朝のあれからどうなることかと心配していたものの、解決以上になったのでよかった。
でも流石に仁志君や美樹ちゃんと喋っているように軽快というわけでもないらしい。
例えるなら、あまり喋らない人と話しているって感じ。
やっぱりあの2人には敵わないのだろうか。
人としてその付き合いの長さはそれほどにまで大きいものなのだろうか。
と、最初はぎこちないのをどうにかしようと思うだけであったが、それが自分も知らない間に高じていた。
その高じた気持ちが何に変わるかといえば他でもない好きだと想う気持ち。
でも、まだそういう風に変わりつつあることを私は気付いてもいなかった。
それで、昨日の朝はあんな風に終わってしまった。
結果的にはあれのおかげというものもあるのだろうけども。
昨日のことがあって少なくとも昨日の朝よりも普通に喋る事ができるだろう。
そう思って今日もまた誘ってみることにした。
着替え終わっていた私は階段を降り、玄関のドアを開ける。
育人君は既に外に出ていて、ちらつく雪を眺めていた。
「おはよ~」
「おはよう」
「よかったらさ、今日も一緒に行かない?」
と、早速誘ってみる。
「いいけど・・・」
なんだか、反応がイマイチ。
「え、何かあった?」
「いや、別に何もないよ」
でも本当に何もないのだろうかと心配になる。
「ん、そう?ならまた30分後ね」
「う、うん」
と、なんとか約束をとりつけた。
それから30分後。
あのソファに座って時が経つのを待っていた私は近くに置いておいたカバンを持ち、廊下を抜ける。
そして玄関のドアを再び開ける。
またもやさっきと同じように育人君の方が早かった。
「待った?」
「いや、今出てきたところ」
「それじゃあいこ」
「うん」
ノリがいいというかなんというか、とりあえず昨日よりもそんな感じだった。
「育人君は冨田パークって行ったことあるの?」
「ん~小さいときに行ったみたいなんだけどよく覚えてなくて」
覚えてないのか・・・。
近くだからそこにどんなものがあるか訊こうかと思ったんだけど、それなら仕方ないか。
「へぇ・・・。そういやさ、去年のクリスマスイヴにもこうして雪が降ってなかった?」
あの日は、美樹ちゃんが遊びに来た日。
たしか2回目だったと思う。
「降ってたと思うけど・・・。たしかその日って、美樹が遊びに行ってなかったっけ?」
そう、遅いから見に出たら美樹ちゃんが育人君と話していた。
「そうそう。マフラー編み終わったって言ってたような・・・」
「マフラー?」
「あれ、知らない?」
「うん」
育人君はあの美樹ちゃんが編んでいたマフラーを仁志君にあげたことを知らないらしい。
「仁志君がマフラーしてたでしょ?」
「うん。え、あれって美樹が?」
「そうそう」
「へぇ、買ったのかなぁと思ってたけど。ああ、だからあの時あんなこと訊いていたんだ」
「そう。でもあの2人何時(いつ)会っているんだろうね」
「さぁ、知らないけど」
「そういや、遊園地でもあの2人一緒?」
「たぶんそうだと思うけど・・・」
あの2人が一緒に行動するとなると私は育人君とと言うことになる。
ならこの間考えていたことはその通りだと言うことになる。
遊園地なんて場所で2人でということは・・・デート!?
そりゃ、実際こうして2人で来てるけど・・・。
なんだか、あの2人が急に遊園地行きを持ちかけた理由がやっとわかった気がした。
初めからそのつもりで・・・。
別に育人君なら構わないけど・・・。
そう思いつつも、それに対する不安と、戸惑いが襲う。
気付くともう学校についていた。
「あっ、じゃあまたあとでね」
と、育人君に一時(いっとき)の別れを告げ、颯爽(さっそう)と教室へと走った。