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あれから、幾らか育人君と雑談を交わしているうちに学校についていた。
その間、歩はただ無意識のうちに前へと進み、あの坂を何時越えたのかさえはっきりしない。
こうして育人君と来るようになってから、あの坂の存在は私の中で段々と薄く消えかけている。
まるで二人の間に立ちはだかる高く厚い壁のように。
それに育人君と話していると時間さえも止まっているような感じがする。
私はそう感じているものの、『時』はただただ何にも憚(はばか)れずに進んでいく。
延々と・・・次の土曜日さえも通り越して・・・いつまでも・・・。
人の想いも、その変化も、その強さも、何にも構うことのないように・・・。
それは私と育人君が教室に入っても相変わらずで。
でも育人君とはその『時』こそ気にせずに、いつまでも話していたい気分。
そんな気分で、話し続けて・・・。
でも次の土曜日、そう引越しのことだけはどれだけ話しこんでも忘れることができなくて。
そんな想いを乗せて時は流れてやがて、昼休みになる。
心に告げると決めたその時に。
「あのさぁ・・・実は言っておかなきゃならないことがあって」
「えっ?」
育人君と美樹ちゃん、それに仁志君が異口同音に返す。
それも育人君は特にだけどみんなきょとんとした雰囲気で。
「実は、次の土曜日に・・・引っ越すことになって・・・」
「ええっ!?」
と、育人君は大声で驚くものだから、クラス中が何があったか知らんと育人君を見つめる。
また随分とオーバーな・・・。
「そうか、引っ越すのか・・・」
と、育人君に対して随分慎重な面持ちの仁志君。
「なんか朝から変だなと思ってたらそういうこと・・・」
そう言ったあと、美樹ちゃんは心配そうに私と育人君を交互に見る。
そしてその育人君は黙りこくっている。
「あ、でも・・・そんなに遠くないからここには通えるんだけど・・・」
「と、言うと何所に引っ越すの?」
と、美樹ちゃんが問う。
「あの遊園地に行くときに通った瑞井駅の近くの団地なんだけど・・・」
「それならここからそんなに遠くもないな」
と、仁志君が言うものの育人君は相変わらずで。
仁志君と美樹ちゃんが知る由もない二人にとって大切なあの朝の時間・・・。
全ての切欠(きっかけ)はあの時間が生んだ賜物(たまもの)であって・・・。
もしなければ私は育人君にとってただの転校生でしかなかった・・・。
互いに隣人であることなど気付かぬまま過ごしていただろう・・・。
そんな大切な時間が消えてなくなってしまうわけだから・・・。
そりゃ私だって相当ショックを受けているわけだし・・・。
あんな育人君の事だからそれはもう私以上に・・・。
大分ショックを、受けているはずだろうし・・・。
あれから一言とも喋らないままだし・・・。
私もそんな育人君が心配だし・・・。
坂という壁の代わりにまた・・・。
別の壁ができてしまう・・・。
また邪魔ができて・・・。
「ねぇ、またそこに遊びにいっていいでしょ?」
と、浸(ひた)っていた私に美樹ちゃんが言う。
「えっ、うん。それはもちろん」
「じゃあ俺も」
と、仁志君が美樹ちゃんに便乗する。
「えっ、仁志も?」
「なんだよ、美樹。俺が行っちゃ悪いのか?」
「ダメダメ、私がいるのに態々(わざわざ)皐月ちゃんの所に行かなくてもいいでしょ」
「瑞井の辺りは行ったことないから、1度行ってみたいと思ったんだよ」
「へぇ・・・。本当に?」
「ほ、本当だよ」
「まさか股かけようなんて考えてないでしょうね?」
「俺が育人から皐月ちゃんをとるわけないだろ」
と、仁志君が断固として否定する。
「さあ、それはどうだか・・・」
なんだか二人の間に黒い雲が漂う。
それも段々エスカレートして喧嘩してるように聞こえるんだけど。
それに何時の間にかクラス中が二人に注目しててここにいるのが恥ずかしくなってくる。
別に私としては仁志君が来ても構わないんだけど・・・。
「あのさぁ、僕も行っていい?」
と、しばらく黙っていた育人君がやっと口を開く。
「それはもちろん。逆に来て欲しいくらい」
「なら是非、行かせてもらうよ」
「じゃあそのときはクッキーでも用意して待ってるね」
「うん」
「で、何時(いつ)来る?」
「僕は何時でも」
「じゃあ来週は越したばかりだし忙しいから、その次の日曜日は?」
「いいよ。ならその日は空けておくよ」
というわけで、育人君とは早速約束はしたものの、この二人はどうなることやら。
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本日は都合によりあとがきは書きません